なすびな生活

なすびな生活


(中身のない話をなすびな話というそうです)


その日、彼はいつものように夜10時頃帰宅した。今日は仕事が順調にはかどり気分は悪くない。彼の家は夜が早く、みんな寝静まっている。食卓には彼一人ぶんの食事が用意してあり、テーブルの片隅の器にみかんの5、6個盛ってあった。


彼は浴室へ行くと、蛇口をひねり、浴槽にお湯を出した。そのまま食卓に戻り、一人きりの食事を簡単に済ませた。給湯が自動的に止まる、キュっという音が浴室から聞こえた。彼は食器を洗い場の水につけると、服を着替えるため自分の部屋へ戻った。下着と寝間着を手に持って食卓の横を通りかかると先程のミカンが目に止まった。まだ小腹が空いている。 みかんを手に取り無造作にむくとその半分を口の中に放り込んだ。

ふと、頭に、レモン風呂とかゆず湯という言葉が浮かぶ。

「 今日はみかん風呂としゃれ込むか。」

彼は独り言を言うと、残りの半分のみかんを口の中に放り込んだ。そのまま浴室へ行き、手に持ったみかんの皮をお湯の中に投げ入れ、服を脱いだ。ぬるめのお湯に体をつけると、目の前にミカンの皮がプカプカ浮いている。程よい暖かさに包まれながら、体を伸ばすと一日の疲れが吹き出てきた。いつのまにか浅い眠りにつく。


ふと目覚めるとから異変に気付いた、体中がチクチクと痛いのである。慌てる。「みかんがいけなかったか?」 シャワーで勢いよく体を洗い流す。治らない。石鹸で体をごしごし洗う、依然、体がチクチクする。彼は諦め、たぶんみかんでお湯が酸性湯になってしまったのだろうなどと、思いながら頭のシャンプーを済ませると風呂場の始末を始めた。風呂を出ると先ほどの食器を洗い、寝床へとついた。体がまたチクチクする。


「 なかなか治らないものだなあ」 このままチクチクが取れなかったらどうしようなどと軽い不安を覚えながら深い眠りについた。

翌朝痛みはすっかり取れ。気分は爽快である。

「やはりみかんの皮は天日干ししてから、使うべきなんだな。手抜きはいけない。次はちゃんとやろう」などと言いながら彼は仕事へ出かけた。



(後書き)


これは母がまだ状態が佳く、存命中の頃の作品(日記)です。この論調の作品がいくつかあるのですが、もう一本次回アップするつもりです。私としてはなかなか捨てがたい路線だと思うのですが、いかがでしたでしょうか?


正しいみかん風呂の仕方は、ネット上に載っていますから、参考ください。


        サーヴァカ

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