労働の意味

労働の意味


彼は建設現場の 「墨出し」という測量の仕事をしていた。

建設する2階建ての工場の柱の位置を特定するために、目印となる木杭を何もない原っぱに打ち込み、釘をミリ単位でさすのが、今日の仕事だった。


月は7月の末、昨年に引き続き今年も猛暑と騒がれ、連日、かんかん照りである。


いつも通りの朝礼でも、熱中症の予防として水分、塩分、適度な休憩を取るようにと昨日と同じことを言っていた。


朝礼が終わり杭打ちのための機械や材料の準備が終わったのが9時頃である。 広い敷地を歩き回るだけで汗が噴き出してくる。


相棒が測量機械を覗きながら、杭打ちの場所を指示してきた、彼は空のお日様をチラリと見ると、小さい声で言った。


「 あんた、機嫌よすぎだぜ。」


90cm ほどの杭を1 m のハンマーを振り回して打ち込んでいく。3ヶ所目で手強い場所に出くわした。木杭が地面が固くて入っていかないのである。 用意しておいた鉄製の杭を使うことにした。これはあらかじめ穴を開けるためのものである。鉄杭を5回、6回、10回とハンマーを振り回して、打ち込みながら、本で読んだ労働神事説と懲罰説の話が頭をかすめた。


労働神事説というのは日本の神道にある考え方で、労働は神に奉仕する委託されたものであるというものである。

一方、懲罰説は、アダムとイブが禁断の果実を食べてしまったために、神は、人間に懲罰を与えた。つまり、女には陣痛という産みの苦しみを、男には食べるための労働をというものである。


彼はハンマーを振り回す回数は10回を超えたところで、


「 これが、神様に対する奉仕なの?」


と自問した。


「 神様がこんなことをすると喜ぶわけ?どうも、信じられない。これはやはり懲罰でしょう。」


地面にしたたる汗が黒いしみを作り出し、両腕に乳酸が溜まってきたのを意識しながら、これは懲罰に違いないと思った。


仕事が一段落して休憩をとることになった。自動販売機で、よく冷えたスポーツ飲料を飲む。その冷たさが心地よく異様にうまい。この世のものとは思えないほど。

「この感覚が、神様のご褒美か。なかなか悪くない。」


彼はそう独り言を言った。



           ー完ー

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