白内障物語

白内障物語


私は50代まで極度の近視、乱視でありました。 40代からは老眼も徐々に進行してきていました。 生まれつきではなく中学生くらいから近視は悪化したのであります。


私は仕事で今、車のドライバーをしています。


当時の視力は、メガネをかけて右目0.7ぐらい 左には0.1ありませんでした。 夜空の月を見る時に右目をつぶると月が三つに見えました。


眼鏡屋さんには眼鏡では、もうこれ以上視力は出ません。コンタクトなら分かりませんが、と言われました。


運転免許の更新に不安を持っていた私はコンタクトレンズ屋を訪れました。 今は使い捨ての安価なコンタクトがあると聞いていたから試してみようと思ったのです。 診察の結果は度がひどすぎて規格品にないため使い捨てではなく、専用のものを作らなければならないとのことでした。 買いました。 2万円ぐらいしたと思います。


コンタクト屋さんには専用の眼科医がいて、私の目を覗き込みながら「あんた白内障だよ。ちゃんとした医者に行って手術しないといけないよ。」とぼそりと言いました。


私の買ったコンタクトは近視用でしたので、100円ショップに行って老眼鏡も買いました。( 遠近両用のコンタクトは4、5万します。)


家でコンタクトを付けて試してみましたが左目はどうもよく見えない。 右目は眼鏡より少しマシなぐらいです。 近くは見えなくなります。 老眼鏡を付けると遠くが不便です。

夜蛍光灯を見ると、蛍光灯のまわりに水蒸気があるように白くぼんやり見えます。


私は眼科医を探すことにしました。 白内障の手術をすると近視が治ると聞いていたからです。


街を歩くと眼科医の看板をいくつか目にしました。「 ○○眼科、 白内障手術、緑内障手術」 という具合です。 私は生まれてから一度も手術なるものを受けたことがありません。 知らない眼科を訪れて、すぐ手術しましょうと言われても失敗が不安でした。


そこで思い出したのが、私の子供が小さい頃、子供を連れて行ったあるこじんまりとした女医さんの眼科です。 手術の施設はなかったように記憶していました。


腕は良いという評判だったのでそこへ行きました。


その先生曰く「 私は手術はしません、必要な時は、紹介状を書きます。 白内障は手術する場合と点眼薬で症状を遅らせる場合があります。市民病院良い先生を知っていますが、ちょうど転勤なので少し待って下さい。あなたの場合はもし手術をするとしたら、入院して同時に両目を行った方が良いでしょう」


これは2年前の夏の終わりの頃です。 2ヶ月ほど経て、結局、市民病院で手術をすることになりました。 12月に検査のために市民病院行きました。 瞳孔を開く薬を使うために車に乗れなくなります。 バスを利用しました。 検査は目の検査と血液検査です。 感染症にかかっているかを調べるのです。 エイズの検査もしました。


入院は2月の第1週の月曜から金曜の五日間と決まりました。


スケジュールは1日目検査、二日目左目の手術、1日置いて四日目に右目の手術、1日置いて6日目に退院です。


入院当日は、宿泊用の荷物を持って、バスを乗り継いで市民病院へ行きました。


簡単な検査と12月の検査の結果が伝えられました。「感染症の方は大丈夫みたいです。」


目に入れるレンズのことで次の確認がありました。

「 レンズは単焦点と多焦点の2種類があります。保険の効くのは単焦点ですどうしますか?」

「 保険の利く方でお願いします」

「 単焦点の場合は補助具として眼鏡が必要になります。 焦点を合わせるポイントとして、本を読むくらい、テレビを見るぐらい、 車の運転をするぐらいの3種類あります。 あなたの場合は近くに焦点を合わせて、遠くは眼鏡を使用したほうが今までと同じ生活パターンに近いので良いと思いますがどうしますか。」

「 それでお願いします」


私の病室は8階でしたが、どうも白内障の人は多いらしく、数人手術を受ける人はいました。




そして1回目の手術を受ける日が来ました。 手術の2時間ぐらい前から看護師が3種類の目薬を何度も点眼しにやってきました。 時間が来ました。 私は車椅子に乗り、若い女性の看護師が押して、地下1階の手術室へ連れて行ってくれました。


なんとなくひんやりした雰囲気の部屋で手術ベッドがありました。 私はそこへ横たわりました。 左腕に点滴、右手に血圧計を看護師がテキパキと取り付けていきます。 昔テレビで見た手術の風景が私の身に今、起きているとぼんやり思いました。 私の頭上に担当の女医さんと補助の医師らしい人が立っていました。


「 痛かったり異常を感じたら、遠慮せずにすぐ言ってください。」と 女医さんが言いました。

「 はい、わかりました」と答えます。


顔に左の目の部分だけ穴が開いたガーゼのようなものをかけられました。

私の左の目は裸眼では全てがぼんやりとしか見えません。 私の左目に液体の入った何かが押し当てられました。 これは麻酔なのかなあ、などと思いました。 それから先は水中から地上を見ているような何か不思議なぼんやりした景色しか見えません。 何度か目を洗ってるような感じがしました。

そして手術は終わりました。 痛みはありません。 目を水で洗った後のような、少ししみる感じが残っているだけです。 左目に眼帯がつけられました。 看護師に押してもらって、車椅子で病室へと戻りました。 手術室に向かって帰るまで大体1時間ぐらいの短い時間の手術でした。


次の日、検査と、右目も続けて手術しますかと意思の確認がありました。 はい、お願いしますと答えました。


4日目、右目の手術が同じように行われました。


最後の日、 今まで、入浴洗髪ができなかったので、看護師さんが、 私が仰向けで水が目に入らないような方法で洗髪をしてくれました。


視力は1ヶ月ほどで落ち着くとのことでしたが、車の運転をするため当面のための眼鏡の処方箋を書いてもらいました。

退院は午後1時頃だったと思います。


兄が迎えに来てくれ、家の近くの眼鏡屋さんに直行しました。 2、3時間でできるということで、家に一旦帰り、夕方、再度店へ行き、家にメガネと共に帰りました。 眼鏡の度数変更は一回はサービスで、できるということで、1ヶ月後にもう一度行くことにしました。


あわただしい六日間でした。 一休みして、 試しに新しい眼鏡をかけて近くのコンビニまで散歩することにしました。


交差点に行くと電信柱が立っていました。 電信柱の陰影がはっきり見え、妙に美しく見えるのです。 まるで芸術的な絵画を見ているようでした。 さらに歩くと家々が見えるのですがどれも壁が美しい。 くすんだ汚れた家並だと思っていたのが、誤解だったことに気づきました。

コンビニのネオンも今までと違い、明るくシャープで美しい。

私はくすんだ世界に住んでいましたが、実は、もっと美しい造形美に取り囲まれていたんだと気づきました。


仏教では 眼根という感覚器官と色という 対象世界の接触により眼識という 認識世界が生じると説きます。


当然のことですが、眼根次第で眼識界は、全然違って見えるのですね。


私は心についても同じことが言えるのではないかと思いました。


意根(心)と 対象世界である法境(概念)、 その接触により生じる意識界。


心がもう少し清らかであれば、我々の意識界も、つまり世界も美しく思えるのではないか。 本来は世界は美しいものではないかと思いました。


さて次の日、私は車に乗りましたが、直線道路の先の方まではっきり見えました。 私には美しく感動的でした。 メガネを外せば文字は何の苦もなくすらすら読めました。


それから一か月ほどして遠近両用のメガネを処方してもらいました。 レンズは無料交換でした。


ちなみに手術代ですが、3割負担で単焦点は、片目6万円、多焦点の場合実費4、50万らしいです。


私の場合は、ある保険に入っていましたので入院実費だけで済みましたが。


それから、退院後は目の感染を防ぐため1日3回2種類の目薬を 1ヶ月 ささなければいけませんでした。

ちょっと面倒でしたが、真面目にやり、術後も順調で全てうまく収まりました。


白内障は日帰りでも手術できるとのことですが、私の場合は今回の選択でよかったのだろうと、関係者に深く感謝いたしております。


         サーヴァカ

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