仏道とは

仏道とは何かということについて、道元禅師は、現成公案で、次のように述べています。

自己をはこびて万法を修証するを迷いとす。万法すすみて自己を修証するはさとりなり。迷を大悟(たいご)するは諸仏なり。悟に大迷するは衆生(しゅじょう)なり。さらに悟上に得悟する漢(注　ひと)あり、迷中又迷(めいちゅういうめい)の漢あり。諸仏まさしく諸仏なるときは、自己は諸仏なりと覚知することをもちいず。しかあれども諸仏なり。仏を証しもてゆく。

仏道をならふといふは自己をならふなり。自己をならふといふは自己をわするるなり。自己をわするるといふは万法(まんぼう)に証せらるるなり。万法に証せらるるといふは自己の心身および他己(たこ)の心身をして脱落せしむるなり。

自己を主として自己の外なる万法を認めようとすることを迷いとする。万法の方から自己の存在が実証されることはさとりである。迷いをおおいに悟るのは諸仏である。悟りにおおいに迷うのは衆生(人類)である。さらに悟りの上に悟る人がいる。迷いの中にさらに迷う人がいる。諸仏がまさしく諸仏であるときは、自己は諸仏であると自覚することをもちいない。しかしながら諸仏である。仏を証していくのである。

仏道修行とは「自己とは何か」を明らかにすることである。自己を明らかにするということは自己を忘れる(自分に対するこだわり執着がなくなること)である。自己を忘れているのは 万物(あらゆる存在)によって悟らされている(万物のあり方通りになること)からである。万物によって悟らされているというのは自己及び他己をして解脱(一切の執着がなくなる、身体的ならびに精神的拘束から解き放たれる) させることである。

注:

現代文は頼住光子氏、水野弥穂子氏の訳文、校注を参照、引用。

万法(まんぼう)

自己の外のものと考えているものごとのすべて

修証(しゅしょう)

修行と証理。仏道修行してその真理を悟る。

証(しょう)

明らかにする。さとり。

感想と考察

道元禅師の有名な言葉です。

わかるような気もするんですけれども難しいですね。

私はこれを読んで 梵我一如の思想を思い出しました。

宇宙を支配する原理であるブラフマンと個人を支配する原理であるアートマンが同一であることを知ることにより永遠の至福に至るというものです。

「自己をはこびて万法を修証するを迷いとす。万法すすみて自己を修証するはさとりなり。」というところです。

どうも、我々の外界(自然など)と一体となる、あるいは、我々と外界の境界線は本来無いという思想は、それ自体としてあるようです。私は、そうかもしれないとは思いますが、感覚的に、それを理解する域に至っていません。

ただ、我々は本来的に、宇宙・自然の一部でつくられ、そこへ戻ると考えると、今の存在の有り様もそれが本当なのかもしれないと思います。

後半の自己に対する執着を離れることにより解脱するというのは、釈尊までさかのぼれる主張だと思います。

我々とは何者なのか、私とは何なのかを考えるとき、参考となる一文だと思います。

　　　　　　　　サーヴァカ